皮膚科医が診る薄毛診断の基準点

セルフチェックでは判断が難しい薄毛の基準。では、専門家である皮膚科医は、診察の際にどのような基準点を見て、薄毛、特にAGA(男性型脱毛症)などを診断しているのでしょうか。医師が行う客観的な評価方法を知ることで、専門医の診断の重要性がより理解できるでしょう。まず、医師は「問診」を重視します。患者さんから、いつから薄毛が気になり始めたか、進行のスピード、抜け毛の量や質の変化、自覚症状(かゆみなど)、家族歴、生活習慣、既往歴、服用薬などの情報を詳しく聞き取ります。これらの情報は、原因を推測し、他の脱毛症との鑑別を行う上で非常に重要です。次に、「視診」で頭部全体を観察します。薄毛の分布パターン(M字型、O字型、びまん性など)は、AGAかどうかを判断する上で大きな手がかりとなります。また、頭皮の色、炎症、フケ、湿疹などの有無も確認し、他の皮膚疾患の可能性を探ります。そして、より客観的で詳細な評価のために、「ダーモスコピー」や「トリコスコピー(毛髪鏡検査)」といった特殊な拡大鏡やカメラを用います。これにより、毛髪や毛穴の状態を数十倍から数百倍に拡大して観察できます。この検査で医師が注目する主な基準点は以下の通りです。「毛髪の太さの多様性(不同性)」:AGAが進行すると、毛髪の太さが不均一になります。太い毛(硬毛)と細い毛(軟毛)が混在している度合いを評価します。軟毛の割合が高いほど、AGAが進行していると考えられます。「毛髪の密度の低下」:単位面積あたりの毛髪の本数が減少していないかを確認します。「毛穴あたりの毛髪数の減少」:健康な毛穴からは通常2~3本の毛が生えていますが、AGAが進行すると1本しか生えていない毛穴(単毛)が増加します。「頭皮の微小炎症や血管の状態」:頭皮の細かい血管の状態や、炎症の兆候なども観察し、頭皮環境全体を評価します。これらの所見を総合的に評価し、問診情報と合わせて診断を下します。必要であれば、血液検査を行い、甲状腺機能や鉄分、ホルモン値などを測定し、全身的な要因がないかも確認します。このように、専門医は客観的な基準と複数の情報に基づいて、薄毛の原因と進行度を診断します。自己判断とは比較にならない、精度の高い評価が可能となるのです。